アジア民族造形学会2024総会/大会で学術発表「ラオスのモン族の口承文化と手仕事」をお願いした安井清子さんの書籍の紹介です。
私的には我が家の本棚にある本の中で若い人達に読んでもらいたい本の一番目になります。
タイにあったラオスのモン族の難民キャンプで働くのを切掛けにモン族の人たちとラオスに深く関わるようになった安井さん。この本はラオスとラオスのモン族の人たちに対 する著者の思いがあふれている本です。
山岳民族モン族は中国、タイ、ラオス、ミャンマーなどの山岳地帯に暮らしていますが、ラオスのモン族は不幸な歴史があります。
ベトナム戦争当時、ラオスでも内戦が行われていました。ラオスのモン族が暮らすベトナムに近い山岳地帯は、いわゆるホーチミンルートにかかっていました。
北ベトナムから南ベトナムへの補給物資などを運ぶルートです。アメリカ軍により空爆がされていました。アメリカはラオスのモン族に、協力しなければ敵と見なし村を空爆すると脅し、アメリカ軍の秘密CIA部隊に仕立て上げられた歴史があります。このことは極秘にされ、1990年代のアメリカの情報公開によって明 らかになりました。
ベトナム戦争が終わった後にラオスも反米勢力が勝利しました。アメリカの手先にされていたラオスのモン族の人たちはタイに逃げ、ラオスに近いタイのバンビナイ難民キャンプに収容されました。
安井さんはNGO団体のメンバーとしてこのキャンプに、子供たちへの図書館をつくる目的で本だけかかえて派遣されました。
彼女がこの難民キャンプで働くことになった切掛けから難民キャンプでの出会いや苦闘、そしてキャンプの閉鎖により、キャンプを去る日までがこの本には書かれています。
キャンプの閉鎖は内戦終了から時間がたちラオス政府が帰国を認めたことによります。ラオスへ戻った人たちや秘密裏にアメリカへ移住した人たち(それもかなりの僻地)に別れました。
モン族は文字の無い民族で、モンの歴史や民話は親から子へ話聞かせて伝えられてきました。その口伝の採取をキャンプで始めたのも彼女ですが、モンは刺繍の得意な民族ですので、刺繍で絵を描きモンの民話を絵本にしたのも彼女です。
涙無くしては読めない本です。特に若い人たち、高校生や大学生にも是非読んでもらいたい本です。若い人の中にはこの本を読んで人生が変わった人もいると思います。
是非ご一読をお薦めします。
尚、彼女は数冊の本を書いています。写真も上手い方です。
現在、ラオス人と結婚しビエンチャンに暮らしています。
2013年6月「世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~」というテレビ東京の番組にも出演しました。現在でも、ラオスに戻ったモン族を支援し、また民話の採取も続けています。
旅行企画の仕事をしていますが、ラオスツアーを企画した際は彼女がビエンチャンにいるときは訪問しお話しを聞くことにしています。
(アジア民族造形学会会員 相葉康之)
◎「空の民(チャオファー)の子どもたち―難民キャンプで出会ったラオスのモン族」
安井 清子(著) 出版社:社会評論社 (2001/01) 定価 2,100円
絶版なのでamazonの古書か図書館で探して下さい。
アジア民族造形学会事務局でも何冊か預かっています。お問合せ下さい。
◎安井清子さん:
日本のラオス文学者。1962年、東京都生まれ。国際基督教大学卒業後、NGOスタッフとして、タイの難民キャンプやラオスで、子ども図書館活動に携わる。現在は、山の村の図書館活動を支援しながら、モンの民話、口頭伝承、生活文化の記録に携わっている。ラオス山の子ども文庫基金代表。ラオスのビエンチャン在住。
著書:私のスカート
ラオスの山から生まれた もんの民話
空の民の子どもたち
ラオス 山の村に図書館ができた
等