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「衣の造形」部会では東京友禅あらた工房見学会を開催しました。
その報告です。
日時:2024年4月24日(水)2:00pm~4:30pm
会場:あらた工房(佐藤 節子 創作キモノ工房)
東京都中野区上高田3丁目
あらた工房は着物染色家、佐藤節子氏が運営する東京手描友禅の着物工房です。
全て手作業により、生地などの素材選びから始まり、図柄を決め、彩色、染め上げて製品にするまでを一貫して行っています。それらの工程を数名のスタッフと共に仕上げています。
工房は新井薬師に近い中野区の瀟洒な住宅街の中にありました。
外見からは工房とはわからない、素敵な民家ですが築100年の民家をリノベーションしているとのこと。
室内も新しくきれいでしたが、ところどころから見える柱や梁から100年前に立てられた家であることがわかります。
1階に展示や人が集まれるスペースがあり2階が工房に改築されています。
佐藤さんのお話と若い女性スタッフ2名による作業を見学をさせていただきました。
◎友禅と東京友禅
友禅とは友禅染を略した言い方で、江戸時代の元禄期(1664~1704年)に活躍した扇絵師、宮崎友禅斎によって創案された着物の染め方です。
生地に糊を用い絵柄の輪郭を描き、中に色を挿します。糊が防染(ぼうせん)の役割を果たし、色が混ざることなく鮮やかで華麗に表現することができます。手描き友禅と型を使った型友禅があります。
京都で生まれた友禅染めは金沢や東京でも花開きました。
東京友禅は、江戸時代の文政(1804~1830年)に参勤交代により大名のお抱え絵師たちも一緒に江戸に来たため、江戸で武家文化、町人文化のもと発展した経過があります。
◎東京友禅あらた工房
人類にとって必要な衣食住のうちの衣は日本では着物文化として発展してきました。
絹であれば蚕から糸を紡ぎ布に織りあげます。これに装飾をし、最後に着物に仕立てます。
本家の京都ではこの友禅染の工程が細分化されそれぞれの職人が担ってきました。しかし各部分での職人の技能が引き継がれず困難な状況が出てきているそうです。
この工房では布になったものに装飾をする友禅染の全ての工程を行っています。それにより東京友禅が残り続けてきました。
この工房では伝統的な柄、新しい創作による柄、お客様からの要望による柄など一点一点手作りで作られています。
◎佐藤節子氏のお話
1階の展示スペースで友禅染の作品を前にして佐藤氏のお話を伺いました。
日本の伝統文化である着物があまり着られなくなったこと、また絹が余り使われなくなったことに憂慮し、日本の文化としての着物を残していきたいとの思いが強く伝わるお話でした。
氏は着物だけにとどまらず日本の伝統文化を残し続ける活動を進めているとのこと。
あらたカルチャークラブを主宰し、着物を着てのイベントや伝統的行事-七夕やお月見、また講談などを行う企画もしてることが紹介されました。
着物のような有形文化財だけではなく、日本の無形伝統文化も残していきたいという思いが伝わってきました。
お茶と和菓子をいただきながらお話を聞きましたが、湯呑茶碗も上から覗くと桜の花びらに見える茶碗、茶碗と菓子が乗った茶托は漆塗りで、漆がはげてきた際は塗り直しをお願いしているとのこと。
蛇足ですが、旧家で使っていた漆の汁椀で複数の蓋があるものを見たことがあります。季節により絵柄が異なり、春は春の柄の蓋、夏は夏の柄の蓋を使っていました。季節によって使い分けていました。
このような伝統文化が無くなりつつあることは大変残念なことだと思う一方、生活の中で残し続けている佐藤氏の思いが伝わったお話でした。
◎伝統衣裳としての着物
あらためてお話しを聞き日本の伝統的衣裳である着物のすぐれた点を再認識しました。反物から着物に仕立てたものをまた反物に戻し新たな着物にすることができることが日本の着物の特徴だそうです。ですから親から子へ、子から孫へと使い続けられるわけです。
参考:だるまや京染本店ホームページより抜粋
「きものは1枚の反物から作られています。
洋服は型紙に沿って生地を裁断するため、一度仕立ててしまうと生地には戻せませんが、きものは使わなかった部分を切らずに縫い込んであるため、縫い糸を解いて並べ替えるとまた反物に戻せます。
反物と服を行ったり来たりできることが洋服との決定的な違いです。
一度仕立てた後も、解いて洗い張りをすることで、元の縫い目を消すことができ、次に着る方の寸法に合わせて仕立て直すことができます。
その際に、胴裏や八掛を取り替えることもできますし、目立つしみはなるべく目立たない場所へ移すこともできます。」
◎作業場の見学
2階の工房では女性2人の作業を見学させていただきました。
生地に糊を用い絵柄の輪郭を描き、中に色を挿しすというのが友禅染の特徴ですが、この工房では主に蝋(ロウ)を使い必要に応じ糊も使っているとのこと。 どちらも染料が布に染み込まないため、他ににじまないよう防染の役目をします。また、輪郭を描いてから布全体を染め、蝋や糊を落とせば白い線として残すこともできます。
見せていただいた反物の中でもどうしてこんな細い線が出せるのか驚くようなものもありました。
若い人達の作業を見学し、手作業による東京友禅の素晴らしさと、これからも東京友禅が残り続けている行ける思いがしました。
どちらかと言えば、日本の伝統衣裳としての着物を着る人や機会が少なくなることの方が憂慮すべき事だと思いました。
大変勉強になった2時間半でした。
佐藤節子氏と工房スタッフの皆さまには貴重な時間を取っていただいたことに御礼申し上げます。
アジア民族造形学会「衣の造形」部会ではこのような企画を今後も進めていきたいと思っています。
アジア民族造形学会「衣の造形」部会担当 (相葉 康之)
現地集合、現地解散でした。皆さん、お疲れ様でした。
小職は最近ボタニカルアート教室に通っております。佐藤節子さんの植物画法に興味を持ち、開眼の一日でした。ありがとうございます。